在宅医療に転職してみて感じたこと

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在宅医療を始める前は、映画やドラマで見る居宅訪問のイメージしかありませんでしたが、実際に働いてみると驚きと学びが多くありました。今回は、その新鮮な記憶が色あせないうちに記録として残しておきたいと思います。

これはあくまで一個人の感想であり、内容によって不快に感じられることがあるかもしれませんが、ご容赦いただければ幸いです。一方で、診察は真剣に取り組んでおりますので、その点もご理解いただければと思います。

心臓血管外科から転職して大丈夫なのか?

これがまず最初に抱いた不安でした。家庭の都合で転職を検討する中、美容外科は自分には向いていないと感じ、透析クリニックや循環器内科なども検討しましたが、最終的に訪問診療の求人が勤務時間や給与の面で最適に思えました。しかし、内科医でもなく、コミュニケーションが得意とも言えない自分がやっていけるのかという不安は消えませんでした。

転職エージェントは前例はたくさんあると言ってくれましたが、それで納得できるわけでもなく。

しかし自分の場合は結果としては問題なかったと思います。

私が考える訪問診療に必要なスキルとは?

  • マネジメント能力

もちろん、幅広い知識を持つことが望ましいですが、外科医には「なんとかする力」、すなわちマネジメント能力が備わっていると思います。私の所属する法人では診察時間が長く取れないことが多く、限られた時間で診察を完了させる能力が求められます。また、知らないジャンルの問題が発生しても、その場で調べて解決するスピードが必要です。

初心者の意見かもしれませんが、ベテランでない限り、まずは100点の医療を目指すのではなく、70〜80点の医療を迅速に提供し、患者さんに満足してもらうことが在宅医療では大切だと思います。100点の医療を求める患者さんは、家族とともに総合病院を受診するものです。訪問診療では、高度で正確な医療を提供するのは難しいため、適切なバランスが重要です。

グループ内に多数の診療科出身者がいますが、なんとなく各科のキャラクターはあります。私の感じる限り、急性期を経験した医師ほど、このようなマネジメント能力を発揮しやすいと思います。手術中のトラブルを解決しながら進める経験が、在宅医療の現場でも活きていると感じます。

癌の知識はあった方がいいけど、、、

  • 緩和ケア知識

当初、癌の緩和ケアに対して苦手意識がありましたが、訪問診療の場では化学療法が終了した末期緩和のステージに関わることがほとんどです。化学療法のレジュメをすべて覚える必要はなく、使用中の薬剤の副作用を調べれば、ある程度の予測対応が可能です。

麻薬の開始や調整についても、便利な教科書や参考書があり、症状に応じた薬剤の選択肢が明示されています。緩和ケア講習を受け、グループ内に相談できる先生がいれば、通常の範囲内での緩和対応は可能です。癌末期は進行が避けられないため、2次予防や臓器不全のコントロールとは異なり、対症療法的なアプローチが求められます。そう考えると、少し敷居が低くなるかもしれません。

もちろん緩和ケア講習などは受けて教科書などで勉強するとしても、相談できる先生がグループ内にいれば通常範囲の緩和的対応はできると思います。癌末期は進行の一途を辿る点では臓器不全の経過と異なります。回復の見込みは無く、2次予防や臓器不全コントロールではなく、対症療法的なところがあると思います。そう思えば少し敷居が下がるのでは無いでしょうか?

意外と一通りの知識はある?

私は周術期管理をすべて自科で行う環境で育ったため、想像していたよりも知識面で困ることは少なかったです。

もちろん、認知症、皮膚科、精神科、パーキンソン病など、不得意な分野も多々あります。しかし、せん妄対策の薬は勉強していますし、皮膚科についても褥瘡やステロイド軟膏を理解していれば応急処置は可能です。精神科に関しても、重度の患者さんは最初から精神科の往診が入っていることが多いです。また、パーキンソン病に関しても、紹介状をもらう時点で「これ以上の内服調整はあまり有意義ではない」と記載されていることが多く、緊急での調整が必要になることは少ないと感じています。

コンサルトできる先生や病院、仲間がいる環境であれば、最初は不安があるかもしれませんが、業務を遂行できると思います。

注意点

在宅医療では、医療的に正しいかどうかよりも、患者の満足度やQOLが重視されることが多いように感じます。ただし、患者やその家族が、医療的に正しくない、あるいは有害な方向に進むこともあります。病院や手術であれば、「それならお好きにどうぞ」と縁を切ることも可能ですが、訪問診療では、相手が契約を切らない限りは関係が続いていきます。

このような状況では、話術や行動経済学、賢い戦略が重要です。高齢の患者さんの中には、医師を尊敬すべき存在として見てくれる方もいますが、若い医師で、転職して訪問診療を行っているというと、最初は軽く扱われることもあります。

患者との関係性を踏まえ、どの程度納得してもらえるか、どういう言い回しをすれば理想的な方向に導けるかを考えることが多いです。医療や介護の問題ではなく、性格やこだわりの問題が多いというのは、決して誇張ではないでしょう。これが嫌だと、毎日がストレスになるかもしれません。

もう一つの問題は、若いうちに外科から転職したことで、病院の先生や介護系の人からドロップアウトしたかのように見られることです。特に承認欲求がないため、他人の評価にこだわることはありませんが、まだまだ訪問診療が目指すべき診療科として認知されていないと感じる場面も多いです。

さいごに

つらつらと書きましたが、結局のところ、何のために転職するかが大切です。私は家庭のために転職しましたが、そのおかげで目標を達成できたので、結果的には良かったと思っています。

他科への転職となると、その科を神格化しがちですが、それはただのバイアスです。多くの医師ができていることなので、自分にもできるはずだという感覚で取り組んで良いのではないでしょうか。少しでも参考になれば幸いです。

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